死して屍、拾うものなし

 そもそも理解に苦しむ節なんて、人間生きている中で色々多々とある。けれど、理解し難いから、困惑してしまうのもまた人間生きている中にある。そんなものだから、困ったなあ。ひょっとして自分の許容範囲が狭いのかな、ひょっとして間違って考えているのは自分の方だろか。まあ、思うようにやればいいんじゃないかなあ、その因果代償は良くも悪くも全て後からついて来るとは思うけどね、それでもいいのならば。それはそれで、闇雲に腹立って腸煮え繰り返りそうになるが、潔く冷静に、脳内で堪え、静観の構え。大人だからね。如何ともし難い。しかし、困ったなあ。
 相互、思いがあれ、思いやれ。
 こんな時こそ一人酒。うん、この一杯は何事にも変え難い。普段は誰かといない限りは酒を飲む事は無い、つまり一人酒をする習慣はまるで無い、そもそもそこまで酒強くない、増してやよりによって飲むのがワイン。そんなものだから、即効悪酔い、一人酒をちょっと悔やむ。やはり、気持ち良く酔うには誰かと飲むべきだな、とか悔やむ。けれども、少しばかり胸がすく思いで一杯になれたから、この一杯は何事にも変え難い、気がする。一人酒が出来る人に少しあこがれる、大人だからね。私はまだまだ大人への道程は遠い模様。
 話は変わって、最近になって久しぶりに散歩を再開した。外は寒いのに関わらず、雨にもマケズ、雪にもマケズ。時静かに長く歩いている。まあ、とか言いつつも、ここももう雪が降りだしたから、そろそろ身体を慣らさないとな、というのと、近頃夜あまり眠れないので時間をつぶすという、単純な理由。
 無頓着さながら不精に何枚もの厚着姿でも、何時間も歩けばさすがに寒い11月。暑いよりは寒い方が好きだけど、この時期はあまり得意ではない、突然雨が降り出すし、突然雪も降り出すし、傘をさすのは嫌いだからずぶ濡れになるし、気温も中途半端に低いから、雪はそのまま溶けて雨になるし、雨は生凍りになって身に纏わりつくし、突然雷が鳴り出すし、目の前を白い閃光が通り過ぎて死を悟りそうになるし、だから雷嫌いだし、そもそも、寒いし、、?自然現象の変動の急速な移り変わりを憮然と眺めながら、それでも良いかとも思う。だって立ち向かわない限り何も変わらない、諦める事なんていつでも出来る、けれど、そのまま何も動かずに、変わらないでいいのか?これは何に対してもそうだろう。かねてからの座右の銘
 死して屍、拾うものなし。
 そんな風に、歩き疲れて満身創痍で呆然と家に帰る。歩いていると脳は少し饒舌になれる、その能弁ぶりをいつでも文章で書ける状態するために、ここの日記のペースを少しだけ早めようと思う、元を言えばこの日記の原点は同様の理由だったはずだ、その理由をすっかり忘れていた。再び歩き始めて、また思い出した。
 歩く道すがらの、風が通る音、雨が打つ音、足音。雷鳴は別に聞かなくてもいいけど。それらの音を聞くのもまた一興、だけども、長く歩くとなるとやはり音楽が恋しくなる。そこで使うのが、便利な時代の象徴のような、産物のような。アイポッド。私はナノとシャッフルを所有しているけど、普段の仕事の行き帰り、遊びの行き帰り、外から家までの生き返り、移動時は専らシャッフルを使う、散歩時も同様。自分自身が外にいる間に耳に突っ込んで音を楽しむだけなら、これで十分。シンプル・イズ・シャッフル。よって、ナノは在宅ワークの箱入り娘である。
 大体私は自らから、最近は何の何っていう曲をよく聴いている云々、と誰かに言うのが今はそんなに好きではないというか、そういう自己顕示欲が薄いんだと思う。でも逆に誰かから、最近は何を聴いているの?と聞かれるのは大好き。有り触れた問いかけではあるけど、この言葉はなんか生きてる心地がして良い、たまに聞かれる時が、とても嬉しい。だから、そんな時は喜び勇んで問いかけてくれた相手に、私が最近何を聞いているか必要以上に丁寧に答える、恐らく、自分が自分のCD棚を見ると面白みに欠けるな、と思うのに、誰かのCD棚を見るのは似たようなラインナップでも物凄く面白く感じる、のと似たような感覚。ナノが箱入り娘と化したのはそれが原因でもある、私は言ってないのに最近聴いている音楽を勝手に画面一杯に無機質にアリアリと表示してしまう、その機械っぽさが嫌で嫌で堪らない。そういう事はちゃんと身をもって知りたい人に自分の口で伝えたい。まあ、私のアイポッドの中身を知りたがる奇特な人はたまにいるけれど。よって、そんなとんでもない蛇々馬ナノには、箱入り在宅ワークの罰に処した。その分、家の中では人知れず愛用中、それで十分。
 多分、デジタルの便利さに身のすべては委ねたくないというか、限りなくデジタルである中でも、出来る限りアナログに音を楽しみたいんだと思う。聴いている音楽でさえも、軽率に扱いたくない。とりあえず、今後アップルがシャッフルにも画面をつけようなんて提案する事がない事を祈りつつ、ただ怯え、身構えるほどではない日々である。
 好きな時に、聴きたい音楽を聴いてはいけないの、
 好きな様に、好きな音を楽しんではいけないの、
 好きな時に、好きな音楽を口ずさんではいけないの?

 そうこう考えているうちに、窓の向こうの景色は真っ白になっていた。
 あぁ、働きたくない。出来れば働かないで、早く森に住んで自給自足の遊牧民になりたい。森の中で鳥を眺めながら静かに暮らしたい、そして時々たくさんの友人に会いに行く。それが、私の夢。忘れられない、「約束」